インタビュー:タイ校卒業生 石田牧子
2023年5月、富山県南砺市に開店したタイ料理店「サムラップ」。金土日のみ営業の隠れ家的レストランにも関わらず、本格的なタイ料理を提供する名店として既に評判、地元客はもちろん、遠くから足を延ばす人やファンの予約が絶えません。
ル・コルドン・ブルー日本校 エグゼクティブ・シェフ ギヨム・シエグレ
「昆布は日本で非常にベーシックな食材。日本料理という文化の根本に、昆布があると感じていました」
昆布をテーマに選んだ理由をそう語るギヨムシェフ。日本では海藻類をよく食べるが、なかでも昆布は特別。醤油などで調味して佃煮や塩昆布としてそのまま食べる一方で日本料理の味の要ともいえる出汁を作るのに使われる。
「私が来日して最も印象深く感じたのが、その出汁でした。日本の蕎麦職人に昆布を使った出汁のとり方を学んだことがありますが、沸騰させない温度の湯に昆布を入れてゆっくり煎じ、味と香りを移していく。完成度の高い手法だと思った」
日本料理の美味しさを土台で支える昆布だからこそ、その味を感じると日本料理を思い出す人も多いだろう。昆布を使ってフランス料理を作ることにシェフが意欲的に取り組んだのも、その解消だった。 「大切にしたのは昆布の味だけが突出しないよう、バランスを図ること。実は、それが最も難しい部分でした」
数ある味噌の中から、パンに加える食材として、“赤味噌”と“白味噌”を選んだシェフ。それぞれの特性を活かし、数種類のパンを焼き上げた。
「赤味噌は少し塩味が強く、香りも印象深かったので、パン・ド・カンパーニュやバゲットのようなハードパンが合うと考えました。逆に、白味噌は甘さを感 じる味。こちらはクロワッサンやブリオッシュのようなヴィエノワズリーが合う。」
クロワッサンに加えた白味噌はパサついた仕上がりにならないよう、豆乳で溶き伸ばしてから使うなど、ひと工夫。 「味噌を加えたパンですが、焼き立てが美味しいのはもちろんのこと、冷めるにつれて味わいに変化が現れたのも驚きでした。味噌の繊細な風味がより引き立つのです。興味深い発見でした」
「噛んで美味しいタルタル、トロッととろけるジュレ、パリッと弾けるチュイル、そうした食感の違いを意識し、昆布の魅力の引き出し方には、様々な手法を組み合わせることで、重層的な美味しさを作り出した」
どれを食べても見事に昆布を感じるが、フランス料理として成立している点が何とも不思議。この美味しさの背景には、シェフの卓越した技術がある。
「フランス料理はいろいろな食材を重ね合わせることを大切にしています。合わせるといっても、ただ混ぜればいいというものでは決してなく、ひとつひとつの食材を理解して組み合わせることが大事。日本で教えている私が、日本の食材をしっかりと理解し、フランス料理に仕立てる。そういう意味でも、今回は私にとって有意義な機会となりました」
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